松倉山(まつくらさん)
岩手県花巻市
標高967.8m
岩手県交通バス湯口線スキー場前下車
【写真】松倉山頂
2011年6月18日
 815 JR水沢
 841〜850 JR花巻(バス乗り換え)
 920 スキー場前バス停
 947 第三ペアリフト終点・登山口
1039 鉛温泉作業道コース合流点
1045 雨量観測小屋
1154 駒頭山
1225 松倉分岐
1244 963峰
1324 松倉山
1506(1606) 松倉山(道に迷う)
1639(1739) 963峰
1650(1750) 松倉分岐
1721(1821) 駒頭山
1821(1921) 雨量観測小屋
1856(1956) 第三ペアリフト終点・登山口
1924(2024) スキー場前バス停〜鉛温泉藤山旅館(タクシー乗車)
(2110) JR花巻
( )内数字は、狂っていた腕時計の表示
2015〜2024 JR花巻
2035〜2121 JR北上
2136 JR水沢

 以前駒頭山に登ったついでに松倉分岐から963峰まで行ったことがある。今回目指すのはその963峰から西約1km先の松倉山である。コースや土地勘があるので気が楽だ。前回の駒頭山登山の時は鉛温泉から作業道を進んだが道の状態が良くなかったので今回は鉛スキー場ゲレンデから続く道を通ってみようと思った。総じて前回の駒頭山登山と比べ時間短縮、体力の負荷も少なくなるだろう。今思えばこの考えが油断となった。
 スキー場前バス停で下車。ゲレンデの作業道を上り始める。第一ゲレンデから右折しナイター設備のあるサターンコースを進む。第二リフト終点の裏を回って平坦な道を北上すると第三ペアリフトの終点に着く。朝方の小雨と草露のせいで膝から下は湿っぽい。リフト終点広場の西端にゲレンデのコース案内板がある。その近くに駒頭山登山口の道標があった。
 案内板の裏から続く細道は樹林帯の急斜面を10メートルほど下ると作業道に突き当たる。ここで右折する。分岐点には赤テープの目印があるので復路で迷うことはないだろう。この先963峰まで林間の中を通りほとんど展望は開けない。ブナ、ウダイカンバ、ウラジロノキ、アズキナシ。左右が切れ落ちた尾根を過ぎると道はスイッチバック式に右に折れる。その後山腹を直線的に西に進む(右手は山、左手は谷)。途中、右手に上る道が分岐する。この分岐道の方に赤テープの目印があることに気づいたのでそちらに入ってみた。この道は5mほど上りすぐ左に折れ急斜面に取り付いた。つづら折りの登りとなる。鉛温泉から上るコースには無かった急勾配の道だ。苦しい登りを何とかやり過ごした後、平坦な所に来るとコケイランが咲いていた。苦労が報われた感じがする。
 鉛温泉からのコースと合流し、間もなく雨量観測小屋を通過。この辺りは日当たりが良いせいで前回来たとき藪が繁茂していたが今回は難なく通過できた。ここまで薄いガスの中を進んできたのだがちょうどブナ原生林(と呼ばれる)地帯に入ったらガスが消え視界が鮮明になった。小生はこの付近(駒頭山中腹)のブナ林が古木が多く好みだ。山頂までブナ林が続くが山頂近くは二次林で幹周りが細い。サワハコベ、ホウチャクソウ、ツクバネウツギ、ユキザサ、ギンリョウソウ、ツルシキミ、マイヅルソウと花も咲いている。右手に沼が見える所まで来ると一帯は蝉時雨である。沿道にはびっしりとチゴユリが咲く。所々落花したアズキナシの花で路上が真っ白になっていた。そろそろ熊に遭遇しそうなので適当に奇声を発しながら進んだ。
 寒沢川林道コース合流点の直前に雪渓が残っていた。駒頭山山頂に着くが山頂部に真新しい大きな糞がありハエが群がっていてゆっくり休憩できそうにない。周囲が樹木で囲まれ山頂からの展望は望めないので休憩せず先に進む。山頂からブナ林を一度下り再び登った所のピーク付近と松倉分岐手前が高木が途切れ頭上から日射しが差し込む。この日当たりがよい灌木地帯はちょっとしたお花畑になっていてサラサドウダン、ウラジロヨウラク、タムシバ、ナナカマド、ムシカリ、コヨウラク、イワカガミ、コバイケイソウが咲く。ショウジョウバカマは既に実である。
 約3時間で松倉分岐に着く。当初の見込みではもっと早着しているはずだったが甘かった。これから順調に松倉山に登頂したとしても帰りのバス時刻を考えると時間的な余裕はなくなっている等々、考えながら休憩。周囲はツクバネソウが満開だ。まずは焦らず963峰を目指す。963峰には難なく到達した。山頂は平坦で南北に細長い。ゴゼンタチバナ、ハナヒリノキが多い。道標を示す木のプレートが数枚散らばっていたが風化が激しく読みとりは不可能だった。ここから西方を眺めると初めて松倉山を見ることができた。地形図上では1kmの距離だがもっと遠くに見える。また北と南にピークがある双耳峰に見える。
 963峰の山頂広場の西に赤テープがあり灌木をかき分け下ると薄暗いブナ林に入る。道は不明瞭で踏み跡は乏しい。急に心細くなる。どうやら容易に到達できそうにないが制限時間まで行けるところまで行ってみることにした。最低鞍部に赤テープあり。その先は笹藪に突入。それでも尾根筋の道は何とか続いているようなので前へ前へと進んでいった。正しいルートかどうかさだかではないが赤テープ(間隔は長い)も続いている。ムラサキヤシオがぽつぽつと咲く。山頂付近になると灌木が地面に這うように枝を伸ばしていてそれらを乗り越えたりくぐり抜けたりするのに労力と時間を費やす。壁のような急斜面が現れたときは引き返す時間が近づいていた。これで最後と思って細木をつかんで斜面を登るともうそれ以上高い場所はなかった。左右にか細い尾根が続いていて左に進んで行き止まりの場所に松倉山の山頂プレートと三角点があった。尾根の反対側は薄暗いブナ林その他は笹藪に囲まれている。展望はない。休憩可能なスペースはない。近くにサラサドウダンが咲いていたのがせめてもの救いか。
 水を補給しようとザックのポケットに手を伸ばすとそこにあったはずのペットボトルが無くなっていた。藪漕ぎで七転八倒したとき紛失したらしい。我慢して下山するしかない。往路と同じ道を引き返しているつもりだがどうも方向がおかしいことに気が付いた。行く手には駒頭山ではなく険しい容貌をした小十郎森が見えている。進路を右へ右へと修正し右手にあるピークを目指す。このピークの頂点付近は灌木が茂り踏みいるのが困難だった。少し下ると展望の良い岩場があった。後で分析するとこの場所は三角点のある松倉山の南に隣接する山で松倉山を双耳峰と考えた場合、松倉南峰と(小生が勝手に)呼ぶ山だと分かった。道に迷い疲労度が増してくる時期だった。このような展望が良い場所に出たのは今思えば運が良かったとしか言いようがない。南面の眼下を遮る物は何もない。左に駒頭山、中央に寒沢川の峡谷、右に松倉山から八方山に続く長い稜線が続く。
 小生はこの絶景を見ながら現在位置を全く把握できていなかった。何しろ自分が松倉南峰にいるとは夢にも思わない。下山ルートは眼下に続く八方山への稜線が確実に見えるが果てしなく遠くに感じる。一方、駒頭山から松倉山まで伸びる稜線の方が近くに見える。何とかその稜線に至るのが近道と思った。その稜線を目指し進むが涸れ沢に進行を阻まれた。深さ、幅とも2〜3mの堀が山肌をえぐっている。もう一度ピークに戻って位置を再確認しようと思って斜面を登る。すると何となく見覚えのある尾根に出た。もしやと思って進んでいくと松倉山頂だった。何がどうなってこうなったのか驚いたがとにかく現在位置が明確になった。 
 二度目の下山。アカミノイヌツゲの密集地帯を過ぎるとどういうわけか再び小十郎森の方向に進んでしまう。ここで進路を変えながら963峰、駒頭山へ続く稜線に進んでいく。涸れ沢が進行を阻むが下り上りして横断した。しかし横断困難な深い涸れ沢に遭遇したため涸れ沢に沿って笹藪を進んだ。そうこうしているうちに稜線に出たようで同じ笹藪なのだが今までよりずっと藪の抵抗がなくなりすいすいと進む。赤テープも現れ正規のルートに戻ったようだ。往路では気が付かなかったが展望も良く西日を浴びる963峰と駒頭山を望むことができた。
 あとは確実に下山することを心がける。ヘッドランプはあるので夜間でも下山はできるだろう。途中でおにぎりを食べたら体力も回復してきた。夕暮れのブナ林を歩く。スキー場前バス停に到達。近くの自販機で飲み物は調達できた。次は帰りの足であるが既にバスの便はない。電話を借りに鉛温泉藤山旅館の湯治部まで歩き帳場の方に頼み込んだ。突然の招かざる客のためにタクシーを手配していただいた。
 タクシーの車中で午後8時の時報が鳴った。小生の腕時計は既に9時を過ぎているので何かの間違いだろうと思った。しかし花巻駅に到着し改札口にある時計を見たら午後8時台を示していた。ここで腕時計も狂っていることを知った。トラブルが続出した山歩きで反省点が多い。次回から初心に戻ろうと思う。

参考文献
※1「再発見 胆江地方から見える山々」及川慶志著 胆江日々新聞社2000年4月発行

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